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Shoko Taruma

2021.2.1 産経新聞

漆の木から出る樹液を器の表面に塗ったり模様を描いたりする漆芸。その技術を使って生み出した芸術作品は、国内外から高い評価を得る。1月、将来を期待される芸術家に贈られる「京都市芸術新人賞」にも選ばれた。
「透き通った深みのある黒こそ、漆の魅力です」。表面を漆で覆われたしずく形のオブジェが、明かりを受けて艶やかにに輝き出す。液体が器からこぼれ出す様子を漆で再現した作品は、今にも動き出しそうだ。

美術館で漆塗りの印籠を見て、その技に一目ぼれし、漆芸を学べる京都市立芸術大に入学。作品づくりに没頭しながら、海外の展覧会にも出展するようになった。
漆の魅力は「黒さ」と「光沢」。その美しさは海外にも知れ渡っている。「日本の技術の繊細さに対し、欧州は形にこだわりがある。西洋の作品に触れ、逆に東洋の美を考えるきっかけになった」

京都の寺などを巡り、気付かされたことも多い。狩野派の絵師が手がけた重要文化財のふすま絵とともに作品を展示した際は、薄暗い部屋と漆の光沢が相まって、「東洋の美」 の一端が感じられた。
何もない白い背景に漆芸作品を置くのが西洋流だとすれば、金箔を使ったふすま絵に囲まれた空間でも作品の良さを引き立て、互いの存在が邪魔し合わないのが日本流。「場所や空間とともに芸術が成り立っている日本ならではの美を実感し、漆の持つ黒は、こうした場面で一段と魅力を増すのだと気付いた」と語る。

最近では、伊万里や景徳鎮(中国)の磁器と漆を調和させ、日本と東アジアの古き良きものを取り込んだ作品づくりに取り組む。
「古い磁器は一つ一つ形が異なるなど、それぞれの力がある。そこに漆を加えることで、東洋ならではの新たな境地を表現したい」。若き才能の夢は広がる。

たるま・しょうこ 平成3年、広島市生まれ。京都市立芸術大学院卒で、平成20年から同大非常勤講師を務める。京都を拠点に国内外で活動し、英ロンドンのイースト・ウエスト・アートアワード奨励賞を受賞するなど、国際的な活躍が期待されている。

(秋山紀浩)